「まさか自分の目が見えていなかったなんて、夢にも思いませんでした」
都内のIT企業でマネジメント職を務める40代男性は、人間ドックのオプションで偶然見つかった自らの視野障害を振り返り、手記にそう記しています。運転免許の更新も問題なくクリアし、日常のパソコン作業でも不自由を感じていなかった彼が、精密検査で突きつけられたのは「左眼の上部4分の1の視野が完全に消失している」という残酷な画像データでした。
一般の人々が想像する「視野欠損」のイメージと、実際の病態との間には致命的なギャップが存在します。多くの人は「視野が欠ける」と聞くと、視界の一部が黒い影で塗りつぶされたり、すりガラスのようにおぼろげに見えなくなったりする状態を思い浮かべがちです。しかし、緑内障における視野欠損の見え方の真相は、まったく異なります。黒いシミが現れるのではなく、視界の欠落した部分を反対側の目や周囲の映像情報をもとに脳が自動的に「画像補完」して埋め合わせてしまうのです。
診察室の現場で眼科医が直面する患者たちのリアルな告白には、共通するサインがあります。
「階段の最後の一段を踏み外して転びそうになることが増えた」
「横から歩いてきた歩行者や自転車に直前まで気づかず、衝突しかけた」
「書類の左端にある文字を無意識に読み飛ばしていた」
これらはすべて、両眼で見ているがゆえに脳の補正機能が働き、欠損を隠蔽し続けた結果として生じる破綻の兆候です。片目ずつ手で覆ってカレンダーや格子状のタイルを注視する簡易チェックを試みて初めて、「中心から少し外れた特定のマス目が消えている」という事実に気づき、戦慄するケースが後を絶ちません。自覚症状として視野の異常をはっきり認識できた段階では、すでに視神経の過半数が死滅し、中期から末期へ進行していることが少なくないのがこの病気の恐ろしさです。