頭の中が雑念で埋め尽くされたとき、多くの人が反射的に試みるのが「何も考えないようにしよう」と強く念じることです。しかし、心理学および認知科学の実験において、このアプローチは完全に逆効果であることが証明されています。
代表的な例が、心理学者ダニエル・ウェグナーが提唱した「皮肉なリバウンド効果(白くま実験)」です。「白くまのことを絶対に考えないでください」と指示された被験者は、抑制を意識すればするほど、脳の無意識の監視プロセスが「白くまを考えていないか?」とチェックし続けるため、結果的に白くまのイメージで頭が満たされてしまいます。「雑念を消そう」と格闘する行為そのものが、脳にとっては強力な雑念の発生源となっているのです。
また、ネット上では「ポジティブな思考で上書きすれば良い」という言説も散見されますが、これも過覚醒状態の脳には負担でしかありません。ネガティブな反芻が起きている最中に無理やりポジティブなイメージをねじ込もうとすると、脳内では「現状への否定」と「理想への執着」の衝突が起き、神経伝達物質の浪費を招きます。目指すべきは思考を無理に消すことでも書き換えることでもなく、「思考が湧いている状態をそのまま客観視し、反応しない」という脱同一化(脱フュージョン)のアプローチです。