武の才能を見出し、芸の骨格を叩き込んだ唯一無二の存在が、フランス座の座長を務めていた深見千三郎(ふかみ・せんざぶろう)です。萩本欽一(欽ちゃん)や坂上二郎らもその門下から巣立ったとされる、浅草屈指の「幻の芸人」でした。
深見と武の深見千三郎との師弟関係は、厳しさと深い情愛に満ちていました。深見は弟子入りした武に対し、徹底的にタップダンスを仕込み、発声や立ち振る舞い、江戸前の洒脱なテンポ感を叩き込みます。武が少しでも照れたり手を抜いたりすれば容赦ない怒声が飛びましたが、舞台を降りれば弟子に美味い飯を食わせ、粋な着こなしや酒の飲み方を教える男気あふれる師匠でした。
深見が残した数々の言葉は、現代でも浅草キッドの名言の元ネタとして語り継がれています。
「バカ野郎、客に媚びるな。芸人なら笑わせるんじゃねえ、笑われろ」
「普段からカッコつけてる奴に、舞台で面白いことなんかできるか」
こうした師匠の教えは、後年のビートたけしのお笑いスタイルだけでなく、映画監督としての美意識にも色濃く受け継がれました。しかし、1983年に深見はアパートの火災によって非業の死を遂げます。武がテレビで天下を取った直後の悲劇であり、恩返しを果たせなかった悔恨の念が、たけしの中に消えない影として残り続けることになります。