階段の踏み外しにおいて、最も警戒しなければならないのが足首を上に反らすことができなくなる「下垂足(かすいそく)」と、脳や脊髄の中枢神経系に関わる疾患です。
下垂足の初期症状と診断基準において着目すべきは、前脛骨筋を支配する腓骨(ひこつ)神経の麻痺です。この神経が圧迫や血流障害を受けると、歩行時に足先を背屈させる(上に向ける)筋力が失われます。本人はいつも通り足を前に出しているつもりでも、つま先が下を向いたまま垂れ下がるため、階段の段鼻に靴先を引っかけ激しく転倒します。診断基準としては、徒手筋力テスト(MMT)で足関節の背屈筋力を測定するほか、踵(かかと)歩きができるかどうかを評価します。踵立ちをして歩けない、スリッパが頻繁に脱げる、平地でも何もない場所でつまずくといった兆候は、典型的な初期アラートです。
さらに、若年層であっても決してゼロではないのが、多発性硬化症(MS)などの自己免疫性脱髄疾患や、若年性脳梗塞、脳腫瘍といった中枢神経系の異常です。以下のリストで危険なサインを客観的に点検してください。
- 片側性の運動麻痺:片側の手足だけが鉛のように重く、階段を昇る際に片足だけ持ち上がりにくい。
- 感覚異常・異常感覚:足の裏に一枚ゴムや紙が張り付いているような感覚の鈍麻、あるいはピリピリとした電撃痛。
- 協調運動障害(運動失調):小脳や脊髄の後索が侵されると、筋肉の力自体はあるのに、階段の段板に足を正確に着地させる協調性が失われ、千鳥足のようになる。
- ウートフ兆候:入浴後や運動で体温が上昇した直後、急激に視力が落ちたり足が動かしにくくなったりし、身体が冷えると回復する現象(多発性硬化症に特有)。
これらが一つでも当てはまる場合、単なる疲労として放置してはなりません。自己診断で時間を浪費する前に、専門医による頭部・脊椎MRI検査を迅速に受ける必要があります。