ネットニュースや動画配信でセンセーショナルに拡散されがちなのが、「国が高齢者の定義を70歳に引き上げ、年金支給を70歳からに改悪しようとしている」という言説です。しかし、この言説には明白な事実誤認と誇張が含まれています。
高齢者の定義を70歳へ変更する議論は、もともと日本老年学会・日本老年医学会が「現在の65歳は医学的・生物学的に見て10〜20年前の同年齢と比較して明らかに若返っている」という客観的データに基づき提言した学術的なアプローチです。学会の提言では以下のような3区分が提示されました。
- 准高齢者(65〜69歳):社会の支え手として活発な活動を継続する準備・活動期
- 高齢者(70〜79歳):従来の高齢者に相当する活動適応期
- 超高齢者(80歳以上):手厚い介護や医療ケアが必要となる期
この医学的提言を、社会保障費抑制を急ぐ財務当局や政策立案者が引用したため、「支給開始年齢の強制引き上げの布石だ」という警戒感が先行しました。しかし、2026年現在においても公的年金の原則的な受給開始年齢は65歳のまま変更されていません。
一方で、制度として拡充された年金受給開始年齢の繰り下げ制度には、知られざる落とし穴が潜んでいます。年金の受け取りを75歳まで遅らせることで、1ヶ月あたり0.7%(最大84%)の増額率を得られる仕組みですが、安易な繰り下げは税金や保険料の跳ね上がりを招きます。増額された年金収入によって所得区分が引き上がり、前述の「医療費窓口負担が1割から2割、あるいは3割へ」「介護保険料の等級が上昇」といった事態が生じ、手取りベースでの増加分が削り取られるケースが頻発しています。額面の増額率だけに目を奪われると、想定外の支出増に泣くことになります。