森林の生態ピラミッドにおいて頂点に君臨する大型哺乳類でありながら、その消化管に送り込まれる品目の大半は緑の葉や木の実である。最新の動物生態学が蓄積した糞便分析や安定同位体比分析のデータによれば、本州に生息するツキノワグマの年間食事量のうち、およそ8割から9割近くを植物質が占めている。北海道に生息する巨体のヒグマでさえ、草本類や果実への依存度は極めて高い。
彼らのメニュー表は、季節の移ろいとともにダイナミックに書き換わる。冬眠から目覚めたばかりの初春、胃袋を満たすのは雪解けとともに萌え出るフキノトウやセリ、ミズバショウといった山野草の柔らかな新芽だ。冬の絶食で縮んだ消化器官を刺激し、代謝を穏やかに立ち上げる。
初夏から夏にかけては、アリやハチなどの昆虫類、サワガニを補食しつつ、ヤマザクラやウワミズザクラ、キイチゴなどの液果(ベリー類)へと狙いを移す。そして運命の秋。越冬に向けた過食期(ハイパーファジア)に突入すると、ブナ、ミズナラ、コナラなどのドングリ類(堅果類)を狂ったように貪り食う。この時期の熊は、1日に数千キロカロリーから1万キロカロリー以上を植物由来の脂肪と炭水化物から一気に蓄積する。肉を切り裂くための牙や鉤爪は、実際には樹皮を剥ぎ、硬い殻を割り、土を掘り返すための多目的ツールとして機能しているのだ。