「タイムラインを高速スクロールしていても、あの素朴な顔と目が合うと、思わず指が止まってしまう」――大手WebメディアやSNSのユーザーコミュニティで頻繁に聞かれる声です。美麗で緻密なイラストが視覚的な刺激として消費されやすい現代において、ゆるいイラストが突出して拡散される背景には、明確な認知心理学的理由が存在します。
第一の理由は、「認知的負荷の劇的な低減」です。日々の業務や溢れかえるニュースによって脳疲労を抱えた現代人にとって、陰影が細かく書き込まれた情報量の多いビジュアルは、無意識のうちに疲労感を与える場合があります。一方で、削ぎ落とされたシンプルな輪郭線と控えめな色彩で構成された脱力系アートは、脳が瞬時に内容を処理できるため、見る者に無条件の「安心感」と「脱力」をもたらします。
第二の理由は、漫画表現論でも語られる「記号化による高い自己投影性」です。写実的な美男美女キャラクターには特定の容姿や属性が固定されますが、シンプルな目鼻立ちのゆるキャラは、特定の誰かではない「余白」を抱えています。読者はその余白に自分自身の日常のやるせなさ、理不尽さ、あるいは小さな喜びを投影します。だからこそ、ちょっとした失敗談や自虐ネタと組み合わせた投稿が瞬く間に共感を呼び、爆発的な拡散(バズ)を引き起こすのです。