ギザみみピチューを手に入れたプレイヤーが真っ先に試み、そして打ちのめされたのが「ピカチュウへの進化」と「他作品への移動」でした。通常のピチューであれば、なつき度を最高まで高めてレベルアップさせることでピカチュウへと進化を遂げます。しかし、ギザみみピチューには「かみなりのいし」はもちろん、なつき度カンスト状態でのレベルアップも一切効果を発揮しません。
作中でこの不可解な現象を解き明かすのが、ワカバタウンのウツギ博士による研究報告です。ウバメの森でギザみみピチューを仲間にした後、ウツギ博士のもとへ連れていくと、次のような決定的な診断結果が告げられます。
「このピチューは セレビィと一緒に 長いあいだ 時を 渡ってきたせいで 体の 遺伝子が 変化してしまっているようだね。だから どんなに なついても ピカチュウには 進化できないんだ」
公式のシナリオ設定として、「長期間にわたる時空移動の影響で肉体と遺伝子が固定化されている」という明確なバックストーリーが用意されていたのです。さらにウツギ博士は「無理に通信マシンを通すと身体に深刻な悪影響が出る」と警告し、これが「通信交換不可」「ポケシフター利用不可」「次世代(第5世代ブラック・ホワイト以降)への転送不可」という鉄壁のゲーム制限の理由付けとなっています。
開発・システム設計の観点からこの構造を読み解くと、より現実的な技術的壁が見えてきます。第4世代(ダイヤモンド・パール・プラチナ・HGSS)におけるポケモンデータは、2Dドット絵のスプライトアニメーションで構成されていました。ギザみみピチューは通常のピチューとは異なる専用の戦闘グラフィック、後ろ姿ドット、連れ歩き専用アイコンが個別制作されています。しかし、第5世代以降の動くドット絵や、第6世代(X・Y)以降の3Dポリゴンモデルへの移行に際し、専用のモーションや骨格差分を1匹の限定イベントポケモンのためだけに恒久的に維持・移植し続けることは、莫大な開発リソースを消費する極めて困難な作業でした。世界観の緻密な設定と開発上のデータ互換性の限界が一致した結果、彼女は「HGSS限定の孤高の存在」として設計されたのです。