男子シングルを中心に、フィギュアスケートの歴史を塗り替えてきたのが4回転ルッツの成功者たちです。その進化の軌跡は、まさに人類の身体能力の限界への挑戦でした。
世界で初めて公式競技会で4回転ルッツを着氷させたのは、2011年のブランドン・ムロズ(アメリカ)でした。当時は「人間が跳べる限界を超えている」とまで言われた大技でしたが、2010年代後半から急速に実用化が進みます。
歴史的な転換点となったのが、平昌五輪シーズンの羽生結弦選手とネイサン・チェン選手(アメリカ)の激突でした。羽生選手は2017年のロシア杯で完璧な4回転ルッツを美しく成功させ、圧倒的な幅と着氷姿勢の美で世界に衝撃を与えました。一方のチェン選手は、4回転ルッツを確実にショート・フリー双方の構成に組み込む「4回転の申し子」として絶対的な強さを誇りました。
さらに近年では、「4回転の神」と呼ばれるイリア・マリニン選手(アメリカ)が、4回転アクセルのみならず4回転ルッツでも極めて高いGOE(+4点以上)を叩き出すなど、技術の極致を見せています。また女子シングルにおいても、アレクサンドラ・トルソワやアンナ・シェルバコワらが五輪の大舞台で4回転ルッツを着氷させ、女子の技術革新を一気に加速させました。
一流ジャンパーの手記や記者会見での証言によれば、4回転ルッツの踏み切り時には体重の約5倍から8倍の衝撃が足首と膝にかかると言われています。恐怖心に打ち勝ち、ミリ単位のブレードの角度をコントロールしながら毎分300回転以上の超高速スピンに入る精神力こそが、この大技を成立させる最大の要因です。