「胸の上部を狙っているはずなのに、セットが終わると三角筋の前部がパンパンに張り、ひどい時にはズキズキとした関節痛が残る」――トレーニング愛好者の間で囁かれるインクラインベンチプレス 効かない理由の根底には、解剖学的なアライメントの崩れが潜んでいます。取材したアスレティックトレーナーは、「多くの人がフラットベンチプレスの感覚をそのまま斜めのシートに持ち込んでしまっている」と警鐘を鳴らします。
最大の問題は、肩関節のインピンジメント(衝突現象)です。シートに傾斜がつくと、フラットベンチに比べて上腕骨と肩甲骨の位置関係が大きく変化します。この状態でバーベルを握り、肘を肩のラインと平行になるほど真横に開いて(外転90度以上)動作を行うと、肩峰と上腕骨頭の間にある腱板(棘上筋腱)や滑液包が物理的に挟み込まれます。これこそが、多くのトレーニーが直面するインクラインベンチプレス 肩を痛める真相です。
さらに、大胸筋上部(鎖骨部)は鎖骨の内側半分から上腕骨にかけて斜め下方向へ走行しています。この筋線維を最大限に収縮・伸張させるためには、腕を「斜め上方へ押し出す」軌道を描く必要があります。ところが、肩甲骨がベンチに固定されず外転(背中が丸まった状態)してしまったり、逆に過度なブリッジを組んで身体の傾斜を殺してしまったりすると、負荷のベクトルは大胸筋から完全に外れ、前部三角筋と関節包に集中してしまうのです。