1984年公開の『風の谷のナウシカ』で提示されたナウシカという存在は、当時のアニメ界における女性描写の枠組みを根底から覆した。民を率いる族長の娘でありながら、腐海と蟲の真実に誰よりも早く気づき、自己犠牲すら厭わずに争いを止めようとする。しかし、彼女は決して無傷の聖女ではない。激しい怒りに身を任せて敵兵を殺傷してしまった瞬間の戦慄や、世界の重荷を背負わされた少女の孤独は、宮崎駿監督が描くヒロインの根底にある「剥き出しの人間性」を象徴していた。
この闘争の系譜は、1997年の『もののけ姫』に登場するサンにおいて、より先鋭化された形で結実する。山犬に育てられ、人間を憎み、顔に鮮血を滲ませて刃を振るうサンの激しさは、従来の「守られるべき女性」という記号を完全に破壊した。人間社会への安易な同化を拒み、森で生き続けることを選んだサンの結末は、安直な和解を許さない世界の厳しさを突きつける。戦うことでしか自分を保てない彼女たちの矛盾に満ちた生は、観客に強烈な爪痕を残し続けている。