北陸の豊かな水と歴史に育まれた富山県高岡市。この地を代表する地場産業が、加賀藩主・前田利長の手によって開かれた高岡銅器だ。長い年月の中で脈々と受け継がれてきた高岡銅器協同組合を中心とする製造エコシステムは、高度な鋳造技術と仕上げの着色技法で日本の金属文化を支えてきた。しかし、ライフスタイルの変化に伴い、床の間や仏壇といった従来の需要は縮小の一途をたどっていた。
この危機感に立ち上がったのが、工房の代表である折井宏司氏だ。従来の銅器着色は、厚みのある重厚な鋳物表面に施すのが常識とされていた。薄い金属板に着色を施せば、加熱や薬品の熱反応で歪みやムラが生じ、製品化は不可能と目されていたのだ。だが折井氏は無数の試行錯誤の末、わずか1ミリに満たない銅板や真鍮板に斑紋模様を着色する前人未到の革新技術を確立した。
銅の自然な酸化現象を極限までコントロールすることで生まれる「Orii Blue」をはじめとする独自の着色美は、人工の塗料では決して表現できない。金属内部から染み出すような深い青や緑、紫の輝きは、職人の手の痕跡と金属本来の生命力が交差した奇跡の造形と言える。