ネット上のギター談義において、時折「パワーコードばかり弾いているギタリストは基礎ができていない」「指2本で弾くのは初心者の手抜きに過ぎない」といった極端な意見が散見されます。しかし、ロック史における名盤やトッププロの証言を検証すると、この俗説がいかに的外れであるかが明白になります。
1990年代初頭、全世界の音楽シーンを激変させたニルヴァーナのカート・コバーンは、生前のインタビューや自著において「自分にとって重要なのは複雑なコード理論ではなく、感情をダイレクトに伝える最小限の音の衝突だった」と語っています。名曲『Smells Like Teen Spirit』の象徴的なイントロリフは、ほぼパワーコードの平行移動だけで構築されています。また、グラミー賞常連バンドであるグリーン・デイのビリー・ジョー・アームストロングや、メタル界の帝王メタリカのジェームズ・ヘットフィールドも、そのキャリアの大部分においてパワーコードを最大の武器として研ぎ澄ませてきました。
パワーコードは「バレーコードが弾けないから選ぶ妥協案」ではありません。音響空間の中でベースやドラム、ボーカルの帯域を邪魔せず、ギター本来のパーカッシブなアタックと鋭いドライブ感を最大化するために、意図的に選択される「音の引き算の美学」です。現代のDTM(デスクトップミュージック)やアニソン、ボカロ楽曲の現場でも、ミックス段階で音の飽和を防ぐため、アレンジャーがプロギタリストにあえて「ここはフルコードではなくパワーコードで隙間を作ってほしい」と指定するケースが日常茶飯事となっています。