小野賢章がハリー・ポッター役に抜擢されたのは2001年、当時12歳(小学6年生)の時でした。4歳から児童劇団(劇団ひまわり)に所属し、子役として舞台やドラマの端役に出演していたものの、声優としての経験はほぼ皆無。そんな彼のもとに舞い込んだのが、映画『ハリー・ポッターと賢者の石』の日本版吹き替えオーディションでした。
当時の報道や本人の回想録によると、応募のきっかけは劇団からの「記念に受けておいで」という軽い推薦でした。原作小説の大ブームが巻き起こっていた最中、何千人もの子役たちが気合十分で挑むなか、小野賢章自身は原作を深く読み込んでおらず、プレッシャーすら感じていなかったと語られています。
配給のワーナー・ブラザース本社および音響制作スタッフが求めていたのは、アニメ的な誇張された美声ではなく、「ロンドンに生きる、どこか孤独を抱えたごく普通の11歳の少年の声」でした。作り込まれた演技ではなく、マイクの前で飾らずに発声した小野賢章の素朴で真っ直ぐなトーンが、主演のダニエル・ラドクリフの醸し出す空気感と完璧に合致。本国の厳格な音声審査(ボイステープ審査)を通過し、見事にハリー役の座を射止めました。
『賢者の石』の吹き替え現場では、声優の基本であるタイムコードの合わせ方すら手探りの状態からスタート。音響監督からつきっきりで指導を受けながら、持ち前の勘の良さと自然体の演技力で、世界中の誰もが知る魔法使いの少年に魂を吹き込んでいきました。