「YELL」の誕生を語るうえで欠かせないのが、第76回NHK全国学校音楽コンクール(Nコン)の存在です。いきものがかりは2009年度の中学生の部課題曲の制作を公式にオファーされました。当時のグループはヒット曲を連発し、J-POPシーンの最前線を走っていましたが、作詞作曲を手掛けた水野良樹にとって、この依頼は極めて重いプレッシャーを伴う挑戦となりました。
当時、水野の脳裏を占めていたのは「大人が上から目線で語る都合のいい応援歌は、10代の心には届かない」という強い警戒心でした。思春期の真っ只中にいる中学生は、友情の尊さだけでなく、人間関係の摩擦、将来への漠然とした不安、孤独感をリアルに抱えています。「頑張れ」「夢は叶う」といった軽薄な言葉を並べても、彼らの心には刺さらないどころか、かえって欺瞞として映るのではないか――。この自問自答から、水野良樹の作詞作曲エピソードにおける壮絶な試行錯誤が始まりました。
何度もプロットを破棄し、自らの中学生時代を追体験するように机に向かい続けた結果生まれたのが、美しくもどこか厳しさを秘めたメロディと詩情でした。単なるタイアップの枠を超え、等身大の若者たちが抱える痛みに真正面から向き合った姿勢こそが、本作が15年以上経った今も色あせない生命力を持つ最大の原動力となっています。