「紙巻きをやめてアイコスに変えたら咳や痰が減った」と感じる喫煙者は大勢います。しかし、呼吸器内科の専門医たちは、この主観的な「体感の改善」こそが受診の遅れを招く危険なトラップであると口を揃えます。
日本呼吸器学会が発表した見解では、加熱式タバコの蒸気を長期間吸入し続けることで、末梢の気道に微細な炎症が持続し、閉塞性細気管支炎や慢性閉塞性肺疾患(COPD・肺気腫)を発症・悪化させるリスクが警告されています。紙巻きタバコ特有の煙による強烈な喉への刺激や不快感が薄れた結果、蒸気をより深く、より頻繁に肺胞の奥深くまで吸い込んでしまう喫煙行動が定着するためです。実際に、若年層を含む加熱式タバコ使用者において、急性好酸球性肺炎などの重篤な肺障害を発症した症例が臨床現場から複数報告されています。
さらに看過できないのが、循環器系への直接的な打撃です。タバコ葉を加熱して発生するエアロゾルを吸引すると、わずか数分以内に血中ニコチン濃度が急上昇します。これにより交感神経が過剰に刺激され、血圧の上昇と心拍数の急増が引き起こされます。
日本循環器学会のワーキンググループによる臨床試験では、加熱式タバコを1本吸引した直後から動脈の柔軟性が失われ、血管内皮の機能低下が紙巻きタバコと同等のレベルで生じることが確認されました。長期間にわたる血管への負担は動脈硬化を静かに進行させ、将来的な狭心症、心筋梗塞、脳卒中といった生命に関わる心血管イベントの引き金を引くことになります。