席に着いた客の視線が吸い寄せられるのは、ほぼすべてのテーブルに運ばれていく名物「天せいろ」だ。主役を張る特大の有頭海老は、器からはみ出さんばかりの圧倒的な存在感を誇る。からりと軽やかに揚げられた衣を噛み締めれば、みしっと詰まった身の甘みと濃厚な味噌のコクが口いっぱいに広がる。
迎え撃つ信州蕎麦は、粗挽きの二八。細打ちながらも凛とした角が立ち、冷水で締められた麺肌はどこまでも艶やかだ。濃い口の辛汁に毛先だけをくぐらせ、一気に啜り込む。鼻腔を抜ける野趣あふれる穀物の香り、喉元を通り過ぎる鋭いキレ。季節の野菜天ぷらをつまみつつ手繰るそのリズムは、一度覚えると忘れられない中毒性を持つ。