インターネットの掲示板やSNS上では、「掻爬術を受けると子宮内膜が薄くなって妊娠できなくなるのではないか」「不妊症の引き金になる」といった根拠の希薄な言説が散見されます。この懸念について、生殖医療の現場視点から科学的な事実を提示する必要があります。
結論から述べると、子宮内膜掻爬術が将来の妊娠へ与える影響について、熟練した専門医が適切な適応のもとで行う限り、不妊の原因になる可能性は極めて低いと結論づけられています。
ネット上で過剰に恐れられているのは「アッシャーマン症候群(子宮腔内癒着症)」と呼ばれる病態です。これは過度な掻爬によって内膜の基底層(内膜を再生させる大元の組織)が広範囲に損傷を受け、子宮の前壁と後壁が癒着してしまう稀な合併症です。しかし現代の産婦人科医療では、超音波ガイド下での精密な処置や、金属キューレットだけでなく内膜への侵襲を最小限に抑える吸引法の併用など、手技の安全管理が著しく向上しています。
むしろ臨床現場では、妊娠率の向上につながるポジティブな側面のほうが明確に証明されています。着床の物理的障害となっていた子宮内膜ポリープや、局所的な増殖病変を取り除くことで、子宮内環境が劇的に清浄化され、受精卵が着床しやすい状態が整います。不妊治療の現場において、原因不明の着床不全が続く患者に対してポリープ切除や子宮内膜刺激(スクラッチング効果)を兼ねた処置が行われるのはこのためです。
ただし、盲目的(肉眼で確認せず器具の感触で行う)な掻爬術には限界もあります。現在では細径のスコープを用いて子宮内を直接観察しながら病変部のみをミリ単位で切除する「子宮鏡下手術(TCR)」を導入する施設も増えています。病変の広がりや自身の希望する妊娠プランに応じて、最適な術式を選択できる時代を迎えているのです。