なぜここまで換算値に差が出てしまうのか。その裏には、マシンの設計工学と生体力学が織りなす「3つの物理的要因」が深く関わっています。
第1の要因は、「滑車比(プーリー比率)による荷重の半減現象」です。ジムに設置されている多くのウェイトスタック式チェストプレスには、ケーブルをスムーズに動かすために複数の滑車が組み込まれています。ここで動滑車が1つ組み込まれていると、物理の法則通り、実際に手元にかかる負荷はウェイトプレートの表示重量の「約2分の1(50%)」になります。つまり、マシンのピンを80kgの位置に挿していたとしても、手元で押している実際の負荷は40kg+機械摩擦抵抗に過ぎないケースが極めて多いのです。
第2の要因は、「初動と終動におけるストレングスカーブ(負荷曲線)の不一致」です。フリーウェイトのベンチプレスでは、バーが胸について切り返す最下点(ボトムポジション)で最も大胸筋が引き伸ばされ、モーメントアームが最大化して強烈な負荷がかかります。人間が最も力を発揮しづらい局面で最大の負荷を受け止める必要があるため、ここで潰れやすくなります。対照的に、カム(変形滑車)を採用したチェストプレスは、力が入りにくい初動の負荷を逃がし、腕が伸びて力を出しやすいフィニッシュ局面で負荷が重くなるよう設計されているため、体感として非常に軽く感じられるのです。
第3の要因は、「ガイドレールによる摩擦係数とアーム自重の相殺」です。マシンの金属シャフトにはテフロン加工や潤滑油が施されていますが、それでも上下動の摩擦によって実効負荷が5〜10%減衰します。さらに、マシンによっては押し出しアーム自体の重さをカウンターウェイトで相殺しているため、バーベル(シャフト自体が20kgの完全なデッドウェイト)を扱うときのようなダイレクトな重力が手元にかかりません。