本作の魅力を語る上で欠かせないのが、アニメーション声優の枠組みを超えた実力派キャスト陣による鬼気迫る演技です。公開当時のアフレコ取材資料によると、細田監督は「キャラクターの魂を吹き込むため、テクニック以上にその人物の泥臭さや生き様を体現できる俳優」を強く求めたとされています。
熊徹役を演じた名優・役所広司は、粗暴でありながらどこか憎めない不器用な父親像を、圧倒的な声の太さと温かみで表現しました。一方、九太役は幼少期を宮﨑あおい、青年期を染谷将太がリレー形式で担当。宮﨑あおいが見せた孤独に震える少年のトゲと愛らしさ、そして染谷将太が表現した思春期特有の葛藤と芯の強さは、同一人物の成長プロセスとして見事なグラデーションを描き出しました。
さらに、九太を人間界で精神的に導く少女・楓役に広瀬すず、九太の好敵手であり宿命を背負う一郎彦役に宮野真守、熊徹の悪友である多々良役に大泉洋、百秋坊役にリリー・フランキー、そして渋天街を束ねる宗師役に故・津川雅彦が配されました。劇中で百秋坊と多々良が交わす軽妙な掛け合いは、リリー・フランキーと大泉洋の絶妙な空気感が生み出した賜物であり、重厚なドラマの中に心地よい日常のリズムをもたらしています。