2026年春、筆者は平日の夕刻に九份のメインストリート「豎崎路(シュージールー)」に立った。雨上がりの濡れた石畳に赤提灯の朱色が映え、息をのむほど幻想的な光景が目の前に立ち現れる。だが、情緒に浸る余地は少ない。細い階段はカメラを掲げる旅行者で埋め尽くされ、歩みを進めることすら一苦労だ。
飛び交う言語の過半数は日本語。「本当に千と千尋の世界そのまま!」「あそこからカオナシが出てきそう」といった歓声が聞こえる。地元自治体がオーバーツーリズム対策として導入したリアルタイム混雑度予測システムが作動していても、熱気は冷めない。
現地で土産物店を営む張さん(50代)は苦笑混じりに話す。「日本のお客さんの大半は『千と千尋』の街だと思って来ます。公式なモデルじゃないと知っている人もいますが、『雰囲気がそのものだからそれでいい』と言われますね」。