なぜ東南アジアのスパイス料理が、現代のグローバルなガストロノミー(美食学)の頂点に立ち得たのか。その秘密は、数百年にわたる文化交流と交易の歴史にある。
マッサマンカレーは、17世紀のアユタヤ王朝時代にペルシャ商人が持ち込んだ乾燥スパイスと、タイ固有の新鮮なハーブ(レモングラスやガランガル)が奇跡的な融合を果たして誕生した。一方のインドネシア・スマトラ島のルンダンは、牛肉をココナッツミルクと大量のスパイスで液分が飛ぶまで何時間もじっくり煮込み、果てしない時間をかけて旨味を凝縮させる。どちらの料理も、時間と手間を惜しまない圧倒的な手仕事によって、単なる料理を超えた「スパイスの小宇宙」へと昇華されているのだ。