伊400型潜水艦が世界の海軍史において唯一無二とされる最大の理由は、潜水艦としての隠密性と、航空母艦としての打撃力をひとつの船体に融合させた点にあります。水上排水量3,530トン、水中排水量6,560トンという巨躯は、20世紀半ばの技術水準としては異次元のスケールでした。巨大な格納筒を甲板上に背負いながら安定して航行するため、船体は断面がメガネのように2つの円筒を並べた「複胴式」という極めて特殊な構造が採用されています。
この巨艦の主兵装となったのが、愛知航空機が極秘開発した特殊攻撃機「晴嵐」です。晴嵐は、直径3.5メートルの耐圧水密格納筒に収めるため、主翼を90度回転させて胴体後方へ折りたたみ、水平尾翼の下端や垂直尾翼の先端までも折り曲げるという極限のギミックを備えていました。
当時の搭乗員の手記には、「真夜中の暗闇と荒波の中、ストップウォッチを握りしめた指揮官の怒号が飛ぶ中、秒単位で主翼を展開しボルトを締める猛訓練を繰り返した」と記されています。浮上してから格納筒の扉を開き、カタパルトから晴嵐3機をすべて空へと射出するまでにかかる時間は、熟練した乗組員の手によって15分以内にまで短縮されていました。潜水艦の脆弱性である「浮上中の無防備な時間」を最小限に抑えるため、ハードとソフトの両面で血の滲むような工夫が凝らされていたのです。