カラオケの部屋に入って間もない段階でマイクを握ると、普段なら出るはずの高音が出なかったり、サビの頭で不意に裏返ったりします。日本音声言語医学会の研究知見やボイストレーニングの現場指導によれば、この現象は声帯内部にある甲状披裂筋(地声筋)と輪状甲状筋(裏声筋)の連動不全によって引き起こされます。
日常会話で使われる音域はせいぜい1オクターブ未満であり、声帯の粘膜はまだ低温で硬く縮こまっています。この状態でいきなりJ-POP特有の跳躍した高音(hiC〜hiD付近)を出そうとすると、声帯が適切に伸展せず、喉周辺の外喉頭筋が過剰に緊張します。その結果、声帯の合わさりが急激に外れ、痛々しい「裏返り」が発生する構造です。
この高音が出ない原因と対策として有効なのは、歌唱直前における声帯ウォーミングアップ方法の実践です。カラオケボックスへ向かう移動中や受付を待つ間に、唇を閉じたまま軽く息を吐き出す「リップロール」を15秒ほど行ったり、舌を上顎につけたまま小さく「ンー」とハミングするだけで、声帯粘膜の血流が促進され柔軟性が劇的に向上します。
さらに現場で即効性がある工夫として、マイクのゲイン(音量)とエコーの設定が挙げられます。機材の返しの音が小さいと、無意識に喉を絞って大声を出そうとする心理的圧迫が働くため、入室直後にマイク音量をやや大きめに設定し、小さな呼気でもしっかりスピーカーから音が返ってくる環境を整えることが、カラオケ喉を痛めない選曲と同じくらい重要な防衛策となります。