春の身延を象徴するのが、全国屈指の規模を誇る樹齢400年のしだれ桜だ。本堂前と宝物館前に鎮座する古木は、淡い紅色の花簾を地面すれすれまで垂らし、息を呑む景観を作り出す。見頃のピークは例年3月下旬から4月上旬。寒暖差の激しい谷あいに位置するため、気象条件によっては開花の進み方が一晩で急変する。見逃さないためには、開花直前の気温推移を注視し、咲き始めから満開までの短い猶予を狙い撃つ計画性が欠かせない。
そして眼前に立ちはだかるのが、287段の菩提梯だ。南天を仰ぐような傾斜は壁と見紛うほどで、無策で挑めば中腹で足が止まる。踏破の秘訣は、序盤でペースを絶対に上げないこと。歩幅を均一に保ち、一段ごとに足裏全体で重心を受け止める。どうしても体力に不安があるなら、無理をせず緩やかな迂回路である女坂や男坂を併用するのが賢明だ。
さらに注目すべきは、通常は関係者以外に門戸が閉ざされている未公開エリアの限定公開情報だ。本堂奥の非公開区画に眠る歴代法主ゆかりの書状や宝物が、日時限定で特別開帳される手筈が整えられている。凛とした空気の中で行われる早朝の勤行(朝事)への参列と併せ、事前に拝観スケジュールを押さえておくことが、唯一無二の体験を手にする鍵となる。