作品を象徴する屈指の名シークエンスといえば、車のナンバー照会のために訪れた「哺乳類車両管理局(DMV:Department of Mammal Vehicles)」のシーンです。アメリカの実際の運転免許センター(DMV)といえば、「手続きの待ち時間が異常に長く、職員の対応が遅い」ことで全国民に知られる悪名高い公的機関。監督のバイロン・ハワードらは、この市民生活の苛立ちを逆手に取り、「職員が全員ナマケモノだったら」という痛烈な社会風刺コメディに仕立て上げました。
48時間以内に事件を解決しなければ解雇されてしまうジュディは極限の焦燥感に駆られていますが、情報屋のニックは面白がってわざとフラッシュにジョークを投げかけます。
「3つのコブがあるラクダはなーんだ?……答えは、妊娠したラクダ!」
この問いかけを聞いた瞬間、フラッシュの表情筋は数ミリ秒単位でじわじわと緩み始めます。脳内でジョークの意味を理解し、可笑しさが神経を伝って顔面へ到達するまでに要する気の遠くなるような時間。そして放たれる、あの独特な笑い方です。
「ハ……ハ……ハ……」と息を吐き出すように途切れ途切れに響く笑い声は、CGアニメーターたちが実物のナマケモノの骨格運動を数ヶ月にわたり観察し、コマ送りのフレーム数を通常の数倍に引き延ばして構築した職人技の結晶でした。さらに、ようやく笑い終わったと思いきや、隣の窓口に座る同僚のプリシラに「おい……プリシラ……今のジョーク……聞いたかい……?」とわざわざ伝えようとしてジュディを絶望のどん底に突き落とす一連の流れは、観客の笑気と共感を極限まで高める見事なテンポ設計となっています。