夜間に伏見稲荷を訪れる際、最も重要な判断基準となるのが「どこまで登るか」という到達地点の選定です。結論から言えば、一般的な観光目的での夜間参拝における推奨限界ラインは標高約160m地点にある「四ツ辻(よつつじ)」です。
本殿から千本鳥居を通り、三ツ辻を経て四ツ辻に至る四ツ辻夜間ルートは、所要時間にして片道約30分から40分。階段の連続で息は上がりますが、参道はある程度広く、所々に街灯や常夜灯が残されています。そして何より、四ツ辻の広場に到達すると、木々の合間から京都市街のパノラマ夜景が一望できます。京都タワーをはじめとする街の灯りが眼下に広がる光景は、登山の疲れを吹き飛ばすほどの美しさです。
注意すべき盲点は、四ツ辻からさらに上を目指す「一ノ峰(山頂・標高233m)」の現実です。旅行者の間では「せっかくなら山頂の夜景を見たい」と考えがちですが、伏見稲荷山頂夜景は実際には望めません。山頂の一ノ峰(上社神蹟)は鬱蒼とした木々と鳥居に囲まれており、視界が完全に遮られているため、街の夜景を見下ろすスポットではないのです。
四ツ辻から山頂を一周して戻るお山巡りルートは、昼間であれば神聖な末社を巡る魅力的な巡礼路ですが、夜間は街灯がほぼ全滅します。足元は苔むした石段と不規則な傾斜が続き、所要時間もさらに40分から1時間ほど加算されます。視界が開けない暗闇の急斜面を登り続ける肉体的・精神的疲労、そしてイノシシとの遭遇率を考慮すると、夜景観賞と安全の境界線は四ツ辻であると明確に認識しておく必要があります。