インターネット上の掲示板やSNSでは、「世界一画数が多い漢字は128画である」「172画の漢字がギネスに認定された」といった言説が定期的に拡散される。これらの真偽について、公式記録と文字学の両面からメスを入れる必要がある。
結論から述べると、ギネスワールドレコーズ(Guinness World Records)が「世界一画数が多い漢字」として単一の文字を公式認定した事実は存在しない。文字の認定には「自然言語として社会的に機能しているか」「公的な辞書に語義と発音が明記されているか」といった厳密な言語学的要件が必要であり、私的な創作物を無制限に認定することは学術的にも不可能だからだ。
ネット上で提示される「128画」や「172画」の文字の正体は、大半が道教の「符籙(ふろく)」と呼ばれる呪符・お札に由来する記号である。雷の字を無数に重ね合わせたものや、龍・風・雲・鬼を幾重にも結合させた図像は、悪霊を退散させ天候を操るための「呪術的シンボル」であって、社会的なコミュニケーションを担う漢字の定義からは逸脱している。
視覚的なインパクトに目を奪われ、単なる図像や落書きに近い創作物を「実在する超高画数漢字」と混同しないよう、客観的な情報選別が不可欠だ。