猫との距離が近づいた段階で、関係性を決定づけるのがスキンシップの質です。ボストン動物病院の創設者であるブライアン・ボークウィン獣医師ら臨床のプロフェッショナルは、猫の解剖学的特徴とフェロモン分泌の仕組みを理解することが、撫で方の成否を分けると指摘しています。
猫の皮膚には、親愛の情や縄張りの主張に用いられるフェロモンを分泌する「臭腺」が特定の部位に集中しています。具体的には以下のエリアが猫が喜ぶ撫で方のゴールデンゾーンです。
- 顎の下:自分では直接舌でグルーミングできない部位であり、指の腹で下から上へ軽く押し上げるように撫でられると強い快感を覚えます。
- 耳の付け根と後頭部:臭腺が集まる急所であり、爪を立てずに優しく揉みほぐすように触れると、緊張が一気にほぐれます。
- 頬から口角周辺:ヒゲの根元を強く引っ張らないよう注意しつつ、毛並みに沿って軽くなぞることで、自らの匂いを相手に移すマーキング欲求を満たせます。
一方で、人間側が「甘えている」と誤解して手を伸ばし、激しい反撃を食らいやすい部位が「お腹」と「手足の先・肉球」です。猫が床に寝転がってお腹を見せるポーズは、リラックスや一定の信頼を示してはいるものの、「腹部を触ってよい許可」ではありません。内臓が集まる無防備なお腹に急に触れられると、反射的に前足でホールドし、後ろ足キックや甘噛みによる防御態勢へ移行します。
また、猫のボディランゲージをリアルタイムで観察することも欠かせません。撫でている最中に「尻尾の先をパタパタと小刻みに振り始める」「耳が横に倒れてイカ耳になる」「皮膚がピクピクと波打つ」といったサインが現れたら、それは過剰刺激(愛撫誘発性攻撃行動の前兆)のシグナルです。どれほど気持ちよさそうにしていても、数秒撫でたら一度手を止め、猫側がさらなるスキンシップを求めて頭を押し付けてくるかを確かめる「引き算の接し方」が求められます。