黒い線ではない通常の白い凹凸筋について、多くの人は「年齢のせいだから治らない」と諦めがちです。確かに爪の縦線と加齢・乾燥には密接な相関があります。爪の水分量は通常12〜15%程度に保たれていますが、加齢に伴い皮膚の天然保湿因子(NMF)や皮脂分泌量が低下すると、爪甲の水分量は10%以下にまで落ち込みます。水分を失った爪組織は弾力を失い、シワのように縦方向の収縮筋を作ってしまうのです。
しかし、近年の臨床研究では、20代や30代の若年層であっても深い縦線に悩まされるケースが急増しています。その背景にあるのが、極端な食事制限や偏食に伴う栄養不足と亜鉛の欠乏です。爪の主成分である硬ケラチンは、18種類のアミノ酸が複雑に結合して構成されています。このアミノ酸結合(ペプチド結合)を再合成する際、補酵素として不可欠な役割を果たすのが亜鉛です。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」でも指摘されている通り、成人における亜鉛の推奨量は男性で11mg、女性で8mg程度ですが、加工食品の多用や過度なダイエットによって慢性的な亜鉛不足に陥っている人は少なくありません。体内の亜鉛が枯渇すると、生命維持に直接関係のない末端組織である爪や毛髪への栄養配分が後回しにされ、爪母でのケラチン産生が滞って粗悪な爪が作られてしまいます。
さらに見過ごせないのが、ストレスと血行不良による微小循環障害です。強い精神的プレッシャーや慢性的な睡眠不足が続くと、交感神経が優位になり、末梢血管が持続的に収縮します。心臓から最も遠い場所にある指先の毛細血管に十分な赤血球が届かなくなると、爪母組織は慢性的な酸欠・栄養失調状態に陥ります。指先が冷たく冷えている人ほど、爪の縦筋がくっきりと深く刻まれるのはこの生理的メカニズムによるものです。