物語の冒頭で誰もが抱く「なぜ人間の乳母ではなく犬が子守をしているのか?」という疑問には、19世紀末から20世紀初頭のロンドン中流階級のリアルな社会背景が関わっています。
原作の描写によると、ウェンディたちの父であるジョージ・ダーリング氏は、見栄っ張りで世間体を人一倍気にする人物でした。当時の中流家庭において「ナニー(乳母)」を雇うことはステータスシンボルでしたが、ダーリング家の経済状況は人間の乳母を高給で雇うほど裕福ではなかったのです。
そこで見つけてきたのが、子守の才能に溢れた賢い犬のナナでした。給与は日々のドッグフードと寝床だけで済み、なおかつ誰よりも真面目に子どもたちの世話をこなすという、まさに「最高のコストパフォーマンス」を誇るスーパーナニーとして雇われたという経緯があります。ここには原作者バリ特有の、当時の気取ったイギリス中流階級に対する痛快な風刺とユーモアが込められています。