2016年以降、ペルーでは任期満了を迎えられた大統領が一人も存在しない異常事態が続いています。2022年末、前任のペドロ・カスティーリョ氏による国会解散の試みと失脚に伴い昇格したディナ・ボルアルテ政権の現在は、まさにその構造的危機の象徴と言えます。
ボルアルテ大統領の支持率は、現地調査で一貫して一桁台(4〜6%前後)という世界的にも類を見ない低空飛行を記録し続けています。政権初期に発生した南部アンデス地域での反政府デモに対する治安部隊の武力行使(死者50人以上)への責任追及に加え、高級腕時計の未申告所持疑惑(通称ロレックス・ゲート)など、度重なる倫理的疑惑が国民の怒りに油を注ぎました。
ペルー政情不安の理由と真相を掘り下げると、単なる個人のスキャンダルにとどまらない憲法構造の欠陥が浮き彫りになります。ペルー憲法第113条に規定された「恒久的な道徳的無能力(Incapacidad moral permanente)」を理由とする大統領弾劾条項が、国会の多数派工作によって容易に乱用される武器と化している点です。
自前の強固な議席基盤を持たないボルアルテ氏は、弾劾を回避するために国会内の右派・保守派会派と野合的な取引を余儀なくされ、抜本的な治安対策や汚職防止策を打ち出せないまま政治的機能不全に陥っています。この国会と大統領の慢性的な対立構造こそが、国家のガバナンスを麻痺させている根本原因です。