半側空間無視の重症度を客観的に測り、リハビリテーション計画を策定する国際的なゴールドスタンダードがBIT行動性無視検査(Behavioral Inattention Test)です。BIT検査は、机の上で行う「通常検査」と、実生活の動作を模擬した「行動検査」の2つの階層で構成されています。
通常検査では、紙の上に引かれた複数の直線の中心に印をつける「線分二等分試験」や、無数に散らばった星印から小さな星だけをペンで消していく「星印抹消試験」、花の絵や時計の文字盤を模写する「模写試験」などが実施されます。半側空間無視の患者に線分の中心を指示すると、左側が認識できていないため、中心点が大幅に右寄りになります。また、時計の絵を描かせると、文字盤の右側半分に1から12までの数字を全て詰め込んでしまう特徴的な描画(時計描画試験の異常)が確認されます。
しかし、机の上のペーパーテストだけでは、実際の生活障害を見誤ることがあります。知的能力の高い患者の場合、紙のフチを指でなぞるなどの代償戦略を用いてテストをクリアしてしまうケースがあるためです。そこで極めて重要視されるのが以下の行動検査サブテストです。
- 写真探索テスト:病室や食卓のカラー写真を見せ、指定された物品を指差しで探させる。
- 電話のかけ直しテスト:プッシュホンのテンキーを用い、左側に配置された数字(1、4、7など)を正確に押せるかを測定する。
- メニューの音読テスト:外食のメニュー表を見せ、左側の料理名や価格を飛ばさずに読めるかを確認する。
- 硬貨の仕分けテスト:テーブルにばらまかれた複数の小銭から指定された硬貨を拾い集めさせる。
これらのテストを複合的に実施することで、無視症状が「どの距離(手の届く近位空間か、歩行する遠位空間か)」で、「どのような課題」のときに顕著になるのかをミリ単位・秒単位で可視化できます。この綿密なプロファイリングこそが、後述する生活環境の調整やリハビリメニューの決定打となります。