日本全国に数多あるすき焼き店の中で、なぜ今半のすき焼きは別格と称されるのでしょうか。その核心は、徹底した「雌牛(メスウシ)へのこだわり」と「炊くように焼く江戸前仕立ての技術」にあります。
一般的な精肉市場では、見栄えの良いサシ(霜降り)が入ったA5ランクの去勢牛が多く流通していますが、今半の仕入れ基準は格付けの数字だけに依存しません。市場関係者の証言によると、目利きが最も注視するのは「脂の融点」と「肉繊維の細やかさ」です。人肌の温度でとろけ出す融点の低い良質な不飽和脂肪酸を含んだ黒毛和牛の雌牛を一頭買いすることで、胃もたれしない澄んだ旨味と芳醇な香気(和牛香)を実現しています。
また、調理法にも決定的な特徴があります。関西風のように肉を直接焼き付けて砂糖と醤油を振りかけるのではなく、南部鉄器の平鍋に少量の秘伝の割り下を張り、肉をくぐらせるようにして火を通す「江戸前すき焼き」を貫いています。この割り下は、熟成させた本醸造醤油、本みりん、純米酒、上白糖を絶妙なバランスで火入れして寝かせたもの。肉の表面を割り下で瞬時にコーティングすることで肉汁の流出を防ぎ、極限まで柔らかな食感を生み出しています。