映画の原題が『Coco(ココ)』であるのに対し、日本公開時に『リメンバー・ミー』へと大胆に改題された経緯について、ファンの間では長年さまざまな憶測が飛び交ってきました。映画の主人公は音楽を愛する少年ミゲルであり、ココはミゲルの曾祖母(ママ・ココ)の名前に過ぎません。なぜ監督のリー・アンクリッチをはじめとするピクサー製作陣は、物語の中心人物ではない老女の名を原題に据えたのでしょうか。
当時の特番インタビューや公式プロダクションノートで監督が明かしたところによると、「この映画の魂は、世代を繋ぐ記憶の保管庫である曾祖母ココそのものにある」という強い信念がありました。ミゲルの冒険は死者の国を舞台に繰り広げられますが、彼が本当に救わなければならなかったのは、現実世界で記憶を失いかけていたママ・ココの心であり、彼女の存在こそが「生者と死者を繋ぐ唯一の架け橋」だったからです。
では、なぜ日本市場においてディズニー・ジャパンは『リメンバー・ミー』という邦題を採用したのでしょうか。興行関係者や配給関係の取材から浮かび上がった理由は、主に以下の3点に集約されます。
- 単語の想起性とブランド商標への配慮:日本では「ココ」という響きが、世界的ファッションブランド(シャネルのココ)やココア飲料、あるいはペットの愛称などを想起させやすく、作品のテーマである「死者の日」「家族の絆」という重厚な物語が初見層に伝わりにくい懸念があった。
- 海外諸国における多言語事情との連動:実は原題の変更は日本だけではありません。ブラジルなどポルトガル語圏では「Cocô(ココ)」が「排泄物」を意味する下品なスラングと同音になってしまうため、映画タイトルが『Viva(生きて)』へ差し替えられた経緯があります。言語圏ごとのローカライズはピクサー公認の戦略でした。
- 主題歌を軸にした感情直結型のプロモーション:ロバート・ロペス&クリステン・アンダーソン=ロペス夫妻が手掛けたメインテーマ「Remember Me」が物語の最重要キーであることは明白でした。「私を忘れないで」という切実なメッセージをそのままタイトルに掲げることで、日本の観客が最も共鳴しやすいエモーショナルなフックを前面に打ち出したのです。