ここで改めて、作家としての骨格を形作った背景と歩みを整理します。検索で頻出する「東川あつや 本名 読み方」ですが、戸籍上の本名も同じ漢字の「東川 篤哉(ひがしがわ あつや)」です。「篤」の字の変換難度や読み間違いやすさから、平仮名で親しみを持って検索されるケースが目立ちます。
東川氏は1968年生まれ、広島県尾道市の出身です。尾道といえば風光明媚な坂の街として知られますが、氏の作品に漂うどこか牧歌的で抜け感のある空気感には、瀬戸内の気候風土が影響を与えていると本人の過去の手記でも振り返られています。岡山大学法学部を卒業後、すぐに専業作家への道が開けたわけではありませんでした。
大学卒業後は一般企業に就職したものの、本格ミステリ作家への夢を捨てきれずに20代半ばで退職。アルバイトで糊口をしのぎながら、鮎川哲也賞をはじめとするミステリ新人賞への投稿を続ける長い下積み生活を経験しました。この約8年に及ぶ不遇の時代について、かつてのインタビューで氏は次のように述懐しています。
「書いても書いても一次選考止まりで、自分のギャグセンスがズレているのか、トリックが陳腐なのかすら分からなくなった時期があった。それでも、密室とアリバイトリックを笑いの中に放り込むことだけは諦めたくなかった」
苦節を経て、2002年に光文社が主催した新人発掘企画「カッパ・ワン」の第1回選定作として、長編『密室の鍵貸します』で満を持してデビューを果たします。この作品こそが、のちに熱狂的な支持を集めることになる架空都市を舞台にした「烏賊川市(いかがわし)シリーズ」の記念すべき第1作となりました。