馬の走りには、人間でいう「歩く」「小走り」「全力疾走」のように明確な段階が存在します。馬術用語ではこれを「歩様(ほよう / 英語:ゲイト)」と呼び、肢(あし)の着地順序やリズムによって4つの基本区分に分かれます。それぞれの歩様の種類と速度を把握すると、馬の身体能力がいかにシステマチックであるかが鮮明に見えてきます。
もっとも穏やかな歩行動作である「常歩(なみあし)」における常歩の時速は約4km〜6km。これは大人の人間が少し早歩きするペースと同等で、4本の肢が常に1本ずつ地面に着く4拍子の安定したリズムを刻みます。森林浴トレッキングなどで初心者でも安心して騎乗できるのはこの速度域です。
続いて、対角線上の前肢と後肢が同時に動く2拍子の運動「速歩(はやあし)」になると、速歩のスピードは時速13km〜15kmへと跳ね上がります。人間のジョギングから自転車を普通に漕ぐ程度のテンポ感であり、上下の揺れが強くなるため、騎手はリズミカルに腰を浮かせる「軽速歩」の技術が求められます。
そして、時代劇の合戦シーンや乗馬クラブのステップアップで登場する「駆歩(かけあし)」の段階では、駆歩の平均時速は約20km〜30kmを記録します。左右どちらかの前肢を前に伸ばす3拍子の躍動的なリズムとなり、風をはっきりと肌で感じる心地よいスピード帯へと突入します。
最後に、馬が生存本能やレースで極限の速さを発揮する形態が「襲歩(しゅうほ / ギャロップ)」です。駆歩のリズムが分解して完全な4拍子となり、背骨をしならせながら4肢すべてが空中に浮く瞬間(浮空期)を伴って地面を蹴り上げます。この襲歩(ギャロップ)の最高時速こそが時速60km〜75kmを叩き出す超高速領域であり、競走馬がターフの上で見せる真骨頂のフォームです。