『輪るピングドラム』を読み解く上で避けて通れないのが、作中で執拗に提示される「1995年3月20日」という日付です。これは現実の日本社会を大きく揺るがした地下鉄サリン事件を直接的なモチーフとしています。
高倉兄弟の両親が所属していた組織「ピングフォース(企鵝の会)」は、閉塞した世界を破壊しようとしたテロ組織であり、彼らが引き起こした地下鉄爆破テロは、残された子どもたちに「加害者の家族」という重い十字架を背負わせることになりました。
このテロを裏で操っていた黒幕・渡瀬眞悧(サネトシ)の正体は、「世界への絶望と破壊を永遠に肯定し続ける亡霊」です。サネトシは、傷つき孤立した人々に「世界は最初から間違っている」「壊滅させてしまえばいい」と囁きかけます。荻野目桃果が希望の象徴であるのに対し、サネトシは絶望の純粋な結晶として配置されており、冠葉の「家族を守りたい」という切実な焦燥感を利用して自らの陣営へと引き込もうと画策しました。