ファンの間では「制作費が削られたのではないか」という憶測が飛び交いましたが、アニメーション業界の制作費相場や決算開示データを精査すると、ワンピースの制作予算自体が他作品に比べて極端に低かった事実はありません。一般的な30分深夜アニメの制作費が1話あたり約1,500万〜2,500万円前後とされるなか、ワンピースのような看板作品には同等以上の製作リソースが投じられていました。
では、なぜ作画が破綻したのか。その最大の元凶は、「終わりのない週刊連載アニメ」特有の過酷な構造的ジレンマにありました。
第一の要因は、原作ストックの枯渇に伴う極端な尺稼ぎ(引き伸ばし演出)です。週刊少年ジャンプの休載頻度が増加する一方で、テレビアニメは毎週放送を止めることができません。原作コミックスに追いつくことを恐れた結果、アニメ1話で原作の「わずか0.5話〜0.8話程度」しか進められない異常事態に陥りました。オープニングと前回のあらすじで5分以上を費やし、本編中もキャラクター同士が見つめ合って呻くだけのカットや、モブキャラクターの過剰なリアクションを執拗に挟む構成が定態化したのです。
第二の要因は、東映アニメーションの制作スケジュールの逼迫とアニメーターの慢性的なリソース不足です。当時は『ドラゴンボール超』の同時制作期とも重なり、腕利きの原画マンや演出家が分散。1話あたりの作画カット数を増やせず、1人の作画監督が莫大な修正作業を抱え込むという「デスマーチ状態」が日常化していました。結果として、スケジュールを死守するために修正が間に合わない原画がそのままオンエアに流れるという、制作現場の悲鳴が画面に表出していたのが実態です。