ネット上のガンダムコミュニティでは、時に「劇場版の制作陣が奇をてらって勝手にデザインを変えた」という誤解が語られるケースがあります。しかし、これは明確な歴史的誤謬です。
前述の通り、1989年に刊行された小説版『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の上中巻の表紙および口絵に描かれたクスィーガンダムは、森木靖泰氏によって「怪物」「非人間的なマシン」として意図的に描かれていました。当時のガンダムシリーズの主流(『逆襲のシャア』のνガンダム等)とは意図的に距離を置き、ミノフスキー・クラフトという未知の超技術を積んだ怪異を表現したデザインだったのです。
クスィーガンダムの劇場版デザイン変更を担当したメカニックデザイナーは、皮肉にもかつてGジェネ版で正統派ガンダム顔へとリファインしたカトキハジメ氏本人です。カトキ氏は劇場版の制作にあたり、自らが過去に手がけたゲーム版の意匠を否定するのではなく、「小説版の森木デザインが本来持っていた凶悪なエネルギー」を現代のリアルメカとして再解釈しました。つまり、劇場版のフェイスは思いつきの変更ではなく、デザイン史を熟知したクリエイターたちによる綿密な「原点復刻プロジェクト」だったのです。