那田蜘蛛山編で胡蝶しのぶから「そんなだからみんなに嫌われるんですよ」と告げられた際、間髪を入れずに放たれた「俺は嫌われてない」という返しは、作中屈指の冨岡義勇の名言(迷言)としてファンの間で定着しました。
この場面は一見するとシュールなコメディリリーフに見えますが、心理学的な視点から解読すると、彼の極めて歪んだ自己認知とコミュニケーションの壁が如実に表れています。柱合会議において他の柱たちと距離を置き、「俺はお前たちとは違う」と発言したことで、周囲からは「見下している」「高慢な男」と誤解されていました。実弥や伊黒小芭内から反感を買っていたのも無理はありません。
しかし、当の義勇の本心は正反対でした。「自分は柱に相応しくない、皆のように立派ではないから並び立つ資格がない」という劣等感から距離を置いていたのです。相手を拒絶する意図は毛頭なく、むしろ他者に対する敵意がないからこそ、しのぶからの直球の指摘に対して悪気なく「嫌われてない」と言い切ってしまいました。この「自己評価の低さ」と「客観的空気の読めなさ」の断絶こそが、義勇という人物の愛おしくも不器用な本質です。