桑野信義氏を襲った病魔は、決して生易しいものではありませんでした。2020年秋、体調不良から精密検査を受けた結果、大腸がん(直腸がん・ステージ3b)が判明。腫瘍は進行しており、周囲のリンパ節への転移も確認される極めて深刻な事態でした。
2021年2月に行われた手術は、実に約14時間にも及ぶ大手術となりました。骨盤内の腫瘍摘出とともに人工肛門(ストーマ)の造設を行い、その後は再発予防のための過酷な抗がん剤治療(化学療法)へと進むことになります。手記やインタビューで本人が語った当時の心境は、まさに筆舌に尽くしがたい葛藤の連続でした。
「抗がん剤の副作用による激しい倦怠感や手足の末梢神経障害は、指先の繊細な感覚が命であるトランペッターにとって死活問題だった」と関係者は振り返ります。唇や指のしびれにより、一時は「二度と楽器は吹けないのではないか」という絶望の淵に立たされながらも、桑野氏は一歩ずつリハビリを重ね、脅威的な精神力で病に立ち向かいました。