獣神サンダー・ライガーを語る上で避けて通れないのが、「素顔」や「本名」を巡るエピソードです。古くからのプロレスファンの間では、ライガーの正体が新日本プロレス出身の実力派レスラー「山田恵一」であることは広く知られています。
山田恵一は広島県出身で、高校時代にレスリングで国体に出場するなど卓越した身体能力を誇っていました。しかし、新日本プロレス入門テストでは当時の規定身長(180cm以上)に満たず一度は不合格。それでも諦めずに単身メキシコや英国カルガリーへ渡り、過酷な修行を経て新日本プロレスへの入門を果たした不屈の苦労人です。1989年4月、永井豪原作のアニメタイアップ企画として「獣神ライガー」が誕生した際、その卓越したテクニックとアクロバティックな動きを買われてマスクを被ることになりました。
興味深いのは、本名や素顔が公然の事実でありながら、ライガー本人は決して公の場で「自分が山田恵一である」と認めたことがない点です。テレビ番組で昔の写真を出されても「これは私の先輩の山田さんです」と茶目っ気たっぷりに切り返す姿勢を徹底しています。この「虚構と現実の心理的境界線(バウンダリー)」を頑なに守り抜くファンタジーへの誠実さこそが、覆面レスラーとしての神秘性を最後まで損なわなかった最大の勝因です。