隣で響くいびきを聞いていて、「急に音が止まり、数十秒後にガハッと苦しそうに息を吸い込む」という不気味な静寂を経験したことはないでしょうか。もしそうなら、それは単なる騒音トラブルではなく、生命を脅かす睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)の典型的な臨床兆候です。
睡眠中に気道が完全に閉塞して呼吸が止まると、血中の酸素飽和度(SpO2)が急激に低下します。脳は窒息の危機を察知して交感神経を緊張させ、強制的に覚醒状態を引き起こして呼吸を再開させます。本人は眠っているつもりでも、一晩に何十回、何百回と脳が覚醒を繰り返しているため、身体は激しい運動を続けているのと同等の負荷に晒され続けます。日本呼吸器学会等の報告によれば、重度のSASを未治療のまま放置した場合、健常者と比較して高血圧の発症リスクは約2倍、脳卒中・脳梗塞は約3倍、心筋梗塞などの虚血性心疾患は約3倍に跳ね上がることが疫学調査で証明されています。
この病魔の存在を白黒はっきりさせるのが、睡眠時無呼吸症候群の検査と診断基準です。医療機関(いびき外来や呼吸器内科、耳鼻咽喉科)における診断フローは段階的に進められます。
初期段階では、自宅に検査機器を持ち帰って就寝時に装着する「簡易アプノモニター検査」が行われます。鼻カニューレと指先のパルスオキシメーターによって、睡眠中の気流の途絶と血中酸素の低下を測定します。より精密な確定診断が必要な場合は、専門施設に1泊して脳波、眼球運動、筋電図、呼吸運動を網羅的に記録する「終夜睡眠ポリソムノグラフィー(PSG検査)」が実施されます。
確定診断の基準となるのが、1時間の睡眠中に無呼吸(10秒以上の気流停止)と低呼吸(50%以下の換気低下)が何回発生したかを示すAHI(無呼吸低呼吸指数)です。
- 軽度:AHI 5以上 15未満
- 中等度:AHI 15以上 30未満
- 重症:AHI 30以上
健康保険の適用下で標準治療器であるCPAP(経鼻的持続陽圧呼吸器)を導入するためには、PSG検査においてAHIが20以上、あるいは簡易検査においてAHIが40以上という厳格な基準を満たす必要があります。「いびきがうるさい」という現象は、身体が発している酸欠のSOSサインに他なりません。