春の優美な姿とは裏腹に、秋(9月〜10月頃)になるとコブシは極めて個性的な集合果を結びます。ゴツゴツと隆起した長さ5〜10cmほどのデコボコした果実が実り、これがまさに「握り拳」そのものの形状を呈します。果実が熟して裂開すると、中から鮮やかな朱赤色の種子が白い糸(珠柄)を引いて垂れ下がるという、非常にユニークな生態を見せます。この赤い種子は野鳥の視覚を刺激し、種子散布を促すための巧みな生存戦略です。
インターネット上や園芸コミュニティの一部では「コブシの花や実には毒性があるのではないか」という懸念の声が散見されますが、結論から申し上げるとコブシに危険な毒性はありません。誤解が生じる背景には、同じ「白い花が咲く庭木」であるキョウチクトウなど強い毒性を持つ有毒植物との混同が挙げられます。
実際には毒どころか、前述の通り未開花の蕾は漢方生薬「辛夷」として古くから内服されてきた実績があります。さらに日本の山間部では、採取したコブシの花びらを天ぷらにしてほのかな芳香を味わったり、乾燥させた蕾や花をホワイトリカーに漬け込んで「コブシ酒」として楽しむ食文化すら存在します。ペットや小さな子どもがいる家庭の庭木としても、毒性リスクの面で過度な心配をする必要はありません。