「丁寧な言葉遣いをしているはずなのに、なぜか先方の反応が硬い」――こうした違和感を抱くビジネスパーソンは少なくありません。実は、おいとましますの失礼なNG例として最も頻発しているのが、格式高いビジネス交渉や謝罪訪問の場での安易な使用です。
言葉の成り立ちである「暇」には、前述のとおり「余暇」「手すき」のニュアンスが含まれます。そのため、初対面の顧客や厳格な役員陣との商談において「それでは、そろそろおいとまします」と切り出すと、私的なお茶会から立ち去るような軽薄さや、緊張感の欠如として受け取られるリスクが生じます。特に相手が多忙を極めるビジネスの場では、「おいとま」という私的で情緒的な言葉遣い自体が、公私の境界線を曖昧にしている印象を与えかねません。
実務マナーの研修現場で指摘される主なNGパターンには、以下のような実例が挙げられます。
- 謝罪・トラブル対応の場:問題解決のための折衝を終える際、「おいとまいたします」と告げるのは不適切。「本日は貴重なお時間をいただき、心よりお詫び申し上げます。これで失礼いたします」と明確に引き締める必要があります。
- 「おいとましてください」と相手に促す:相手に退去を促すつもりで「どうぞおいとましてください」と使うのは重大なマナー違反。「お暇」は自らの立ち去る動作をへりくだって述べる謙譲の文脈で機能するため、他者に向けると「早く帰ってください」という侮蔑のニュアンスに転落します。
- 唐突な会話の中断:話が盛り上がっている最中に時計をチラチラ見ながら「そろそろおいとまします」と告げる行為。言葉自体の問題以前に、辞去のクッション言葉が欠如していることで相手を白けさせてしまいます。