二俣町を語る上で欠かせないのが、集落の中央を蛇行しながら流れる森本川の存在です。和紙作りには、鉄分やマンガンなどの不純物が極めて少ない清冽な軟水が欠かせません。医王山のブナ林が蓄えた雪解け水が森本川となり、二俣の地に豊かな水量をもたらしました。厳冬期、冷たい流水に晒して楮の樹皮から不純物を取り除く「ちり取り」の作業は、この森本川の恵みがあってこそ成立してきた営みです。
しかし、現在の集落が置かれている現実は決して平坦ではありません。高齢化率は県内の中山間地域と同様に高水準で推移しており、空き家の増加や集落機能の維持が切実な課題となっています。かつて集落の隅々にまで張り巡らされていた用水路や石垣の保全には、住民の多大な労力が割かれています。
その一方で、2020年代半ばから顕著になってきたのが、クリエイターや工芸作家を中心とした移住と集落の再評価です。金沢美術工芸大学の卒業生や、都市部から伝統技法を学びに訪れた若手職人が空き家をリノベーションし、アトリエ兼住居として定住する事例が相次いでいます。「閉ざされた伝統の里」から、外部の感性を受け入れる「開かれた創作の集落」へと、その内実は緩やかに変容を遂げています。古民家の板壁と森本川のせせらぎが織りなす景観は、ノスタルジーを超越した新たな創造の場として再構築されつつあります。