伊坂幸太郎の原作を映像化した作品の中で、最も完成度が高く「最高傑作」と称されるべき1本はどれでしょうか。映画ライターや原作読者、映画レビューサイトの膨大な蓄積データを突き詰めていくと、議論はほぼ例外なく2本のタイトルに集約されます。2007年公開の『アヒルと鴨のコインロッカー』、そして2010年公開の『ゴールデンスランバー』です。
映画芸術としての切れ味、そして「小説の叙述トリックをいかにして映像で成立させるか」という難題への回答として、映画関係者が満場一致で推すのが『アヒルと鴨のコインロッカー』です。当時まだ無名に近かった濱田岳の素朴な存在感と、瑛太(現・永山瑛太)の放つ不穏かつ切ないカリスマ性。ボブ・ディランの名曲「風に吹かれて」を軸に、現在と過去が美しく交錯する脚本は、公開から年月が経った現在でも「伏線映画の最高峰」として映画学校の講義で題材に挙げられるほど高い評価を獲得しています。
一方で、エンターテインメントとしてのカタルシス、スケール感、そして大衆性を兼ね備えた最高傑作として圧倒的な支持を誇るのが『ゴールデンスランバー』です。首相暗殺の濡れ衣を着せられた平凡な配達員・青柳雅春の逃亡劇を描いた本作は、主演の堺雅人をはじめ、竹内結子、香川照之、吉岡秀隆、大森南朋といった名優たちが集結。仙台の街を舞台にした大規模ロケーションと斉藤和義の叙情的な音楽が見事に融合し、絶体絶命の包囲網を「信頼」の力で突破していく痛快さと切なさは、観客の感情を激しく揺さぶります。
「ミニマムで繊細な人間ドラマと映画的トリックを味わうなら『アヒルと鴨のコインロッカー』」「壮大なサスペンスと極上のエンターテインメントを体感するなら『ゴールデンスランバー』」。この2本こそが、伊坂映画の頂点を分け合う揺るぎない傑作といえます。