陽圧環境を形成する上で不可欠なのが、給気側の圧倒的な清浄度です。どれほど室内圧力を高めても、送り込まれる空気が汚れていては意味がありません。現代の病院空調設備設計では、高性能エアフィルターである「HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルター換気」システムが中核を担っています。
HEPAフィルターは、定格風量で粒径0.3μmの粒子に対して99.97%以上の捕集効率を持つ空気清浄装置です。細菌自体の大きさは通常0.5〜5μm程度、ウイルス単体は0.02〜0.1μm程度ですが、ウイルスは空気中を単独で飛散するのではなく、通常は水分や唾液などの飛沫核(直径数μm)に付着して浮遊します。そのため、HEPAフィルターを通過した給気は、微生物学的に極めて清浄な無菌空気に近いレベルへとろ過されます。
さらに、手術の内容や感染リスクに応じて、空間内の清浄度クラス分類が厳格に定められています。
- バイオクリーンルーム基準(超清浄手術室):心臓血管外科手術、人工関節置換術、脳神経外科手術、臓器移植など、異物を体内に埋め込む手術や感染が即座に致命傷となる高度手術で使用されます。天井全面にHEPAフィルターを配置し、術野に向かって真上から真下へ乱れのない空気流を押し流す「垂直層流方式」を採用。NASA規格クラス100(1立方フィートあたりの0.5μm以上の微粒子数が100個以下、ISOクラス5相当)という超清浄度を維持します。
- 一般手術室(通常清浄手術室):消化器外科、一般外科、産婦人科、整形外科一般などで用いられます。乱流方式または部分層流方式が用いられ、清浄度基準はクラス10,000(ISOクラス7相当)に保たれます。換気回数は毎時15〜20回以上が標準とされます。
天井から清浄空気を絶え間なく供給し、床面近くのスリット(排気口)から室内の空気を押し流すことで、手術台の上には常に真新しい清潔な空気のカーテンが作られています。