Web上の口コミやQ&Aサイトを調査すると、「名古屋港水族館の潜水服には中にリアルな顔の人形が入っていて気味が悪い」という投稿が散見されます。しかし、これは明らかな記憶の混同です。
水族館の出口から徒歩数分の場所に係留・保存されている「南極観測船ふじ」の船内見学ルートには、当時の船員や観測隊員の船内生活を再現した等身大マネキンが多数配置されています。医務室で治療を受ける隊員や調理室で立ち働く隊員など、昭和後期の空気感を宿したマネキンたちが非常にリアルであるため、多くの観光客に強烈な印象を植え付けています。その中には、防寒潜水服や特殊作業着を身につけた姿の展示も含まれます。
一方、名古屋港水族館の南館に展示されている潜水服の内部には、顔のあるマネキン人形は入っていません。頭部の真鍮兜の中は真っ暗な空洞であり、だからこそ「誰の気配もしないのに、今にも動き出しそうな不気味さ」を醸し出しています。
「顔があるから怖い」のが南極観測船ふじの展示であり、「顔がないからこそ想像力を掻き立てられて怖い」のが名古屋港水族館の展示です。この2つが記憶の中で結合し、「水族館の潜水服には恐ろしい顔が入っている」というネット上の都市伝説めいた誤解が生み出された構造が取材を通して判明しました。